藤岡信勝(ふじおか のぶかつ)

拓殖大学客員教授
新しい歴史教科書をつくる会理事

※8日(日)講演予定

昭和18年(1943年)、北海道生まれ。北海道大学教育学部卒、同大大学院教育学研究科博士課程単位取得。北海道教育大学助教授、東京大学教育学部教授などを経て、現在、拓殖大学客員教授。戦後の歴史教育を根底から見直す。「自由主義史観研究会」を組織し、ベストセラー『教科書が教えない歴史』1~4(扶桑社)をまとめる。第21回正論大賞受賞。主著に『近現代史教育の改革』(明治図書)、『汚辱の近現代史』(徳間書店)、『呪縛の近現代史』(徳間書店)、『「自虐史観」の病理』(文藝春秋)など、共著に『国民の油断』(PHP研究所)、『「ザ・レイプ・オブ・南京」の研究』(祥伝社)、『教科書採択の真相』(PHP新書)など。
藤岡先生は、日本人に戦争の罪悪感を埋め込むために捏造された南京大虐殺や従軍慰安婦問題が教科書に掲載され、子女に自虐史観を埋め込む教育が行われることを憂慮し、「新しい歴史教科書をつくる会」会長としても教科書づくりにも取り組まれた方で、現在も日本の真実の歴史を、国内外に広める活動に取り組まれています。

自虐史観を超える日本 歴史の真実

■東日本大震災で世界から絶賛された日本人の行動

 2011年(平成23年)3月11日、東北地方でマグニチュード9.0の大地震が発生しました。その後の10メートルを越す津波で、岩手・宮城・福島の太平洋側の市町村は、壊滅的な打撃を受け、死者・行方不明者は2万人にのぼりました。
 こうした大災害のなかでも、被災者は肉親を失った悲しみに耐え、礼節を失わす、冷静沈着に行動しました。この高貴な日本人の姿は、外国の人々の感嘆と称賛の的となりました。
 アメリカのニューヨーク・タイムスは、「日本人がこうした状況下で、米国のように略奪や暴動を起こさず、相互に助け合うことは全世界でも少ない独特の国民性であり、社会の強固さだ」と評しました。
 韓国のメディアも、被災地の住民たちが、「お先にどうぞ」「いえ、私は大丈夫です」と声を掛け合って、譲り合いの精神を忘れずに対応し、怒号が飛び交うこともなかった、と称賛する現地ルポを伝えました。
 宮城県南三陸町の職員で危機管理課に勤める遠藤未希さん(24歳)は、津波が迫る中、防災無線で「6メートル強の波があります。早く逃げて下さい」と住民に避難を呼びかけ続け、自らは津波にのみ込まれてしまいました。彼女の呼びかけによって、その母親を含む多くの住民の命が救われました。
 災害出動した自衛隊員や警察官の献身的な働きも特筆すべきものでした。
 「日本社会に根付く義務感、逆境での品位、謙虚さ、寛容、勇気」(スペイン)、「無私の心と不動の献身」(アメリカ)、「武士道精神」(台湾)など、各国は日本人の国民性と資質を高く評価しました。
 外国人が評価したのは、日本の長い歴史のなかで育まれて来た日本の文化です。日本人は、縄文時代以来、豊かな自然と恵みの大地のもとで、人の和を大切にし、弱肉強食とは異なる助け合いと、支え合いの社会をつくってきたのです。


■アジアの女性を「性奴隷」にした残酷な犯罪国家・日本

 ところが、これとは全く異なる日本人像が、今、世界中にひろがっています。
 2007年7月30日、アメリカ下院は次のような決議を行いました。(121号決議)

 <1930年代から第2次世界大戦までの間、日本政府は、「慰安婦」と呼ばれる若い女性たちを日本軍に性的サービスを提供する目的で動員させた。日本政府による強制的な軍隊売春制度「慰安婦」は、集団強姦、強制流産、恥辱、四肢切断、死亡、自殺を招く性的暴行など、残虐性と規模において前例のない20世紀最大規模の人身売買のひとつである>

 これで見ると、日本人は残虐極まりない民族のようです。ここでは日本政府の所業とされていますが、日本政府は日本人がつくった政府であり、日本政府の行為とは日本人の行為にほかなりません。残虐行為をした下手人が日本人であると見なされていることも当然です。決議文には、次の一節もあります。

 <日本政府は1930年代から第2次世界大戦終戦に至るまでアジア諸国と太平洋諸島を植民地化したり戦時占領する過程で、日本軍が強制的に若い女性を「慰安婦」と呼ばれる性奴隷にした事実を、明確な態度で公式に認めて謝罪し、歴史的な責任を負わなければならない>

 <日本政府は、国際社会が提示した慰安婦に関する勧告に従い、現世代と未来世代を対象に残酷な犯罪について教育をしなければならない>

 ここでは、慰安婦とは「性奴隷」であり、日本は「残酷な犯罪」を犯したことを子供に教育せよ、とまで要求しているのです。

 東日本大震災で高貴な精神性をしめした日本人と、アジアの女性を性奴隷にするという残酷な犯罪を犯した日本人。両者はあまりにも矛盾しています。一体、どちらの日本人が本当の日本人なのでしょうか。どちらかが嘘で、どちらかが本当なのでしょうか。しかし、東日本大震災の日本人は、外国の記者達が目撃して報道した出来事です。これが嘘であるということはあり得ません。そうすると、アメリカの議会決議のほうが嘘に基づいている、ということになるのでしょうか。
 それとも、戦前までの日本人、ずなわち今生きている私達日本国民の父母、祖父母、曾祖父母に当たる日本人は、残虐非道極まりない人間であったが、戦後にわかに高貴な精神性を獲得するに至ったのでしょうか。結局、問題は次のように設定し直すことが必要となります。

 アメリカ下院の「対日非難決議」は、歴史上実際にあった事実に基づいているのか、それとも虚偽に基づいているのか。
 この問題に結論を出さないかぎり、混乱した日本人イメージは解消されることはありません。そこでまず、アメリカ下院の決議は正しい事実に基づいているのかどうかを検証します。